検索したいキーワードを入力してください。
キーワードが複数ある場合は、
半角スペースで区切って入力してください。
例) 多治見 まち イベント

こと  2024.05.08

聴覚障がい者の“文字の通訳”となる「要約筆記」とは? 多治見で活躍する要約筆記者になるためにできること

あっつう度

私たちが暮らすまちには、いろいろな人が暮らしています。世代、性別、国籍だけでなく、健康状態、就労、家庭環境など状況は千差万別。多様な人が生きる社会で欠かせないのが福祉の取り組みです。今回は、聴覚障がい者のコミュニケーション手段となる「要約筆記(ようやくひっき)」について取材しました。

 

要約筆記とは、聴覚障がいのある人に対して、話された内容を文字にして伝える方法のこと。聴覚障がい者とのコミュニケーション手段は手話や筆談だけではないのです。要約筆記は全ての言葉を文字にするわけではなく、話の内容が早く、正しく、読みやすく伝わるように要約しながら文字化する通訳です。

 

今回は、多治見市役所福祉課の佐藤菜月さん、同課・手話通訳員の八木こずえさん、加藤由美さんにお話を伺いました。要約筆記とは何なのか?どんな場面で必要なのか?そして、要約筆記をより理解するべく、A2 編集メンバーのりさぼんと体験講座に参加しました。後半では講座レポートもお届けします。

 

 

聴覚障がい者と話し手の架け橋となる通訳として

 

多治見市福祉課の加藤由美さん、佐藤菜月さん、八木こずえさん(写真左から)

 

日本には約44万人、聴覚・平衡機能障がいのある人がいます。(2021年度末現在、厚生労働省ホームページより抜粋)多治見市においても聴覚・平衡機能障がいの人は270人生活しています。(2022年4月現在)全く音が確認できない場合もあれば、母音しか聞こえない、ぼやーっとした音で認識するなど、聞こえにくさの状態も人によってさまざまです。

 

出生時や言語を習得する前から聴覚に障がいがある場合と、思春期や成人してから失聴した中途失聴者、補聴器の使用によって低下した聞こえをサポートしている難聴者、それぞれ性質や支援の方法が異なります。病気や事故、高齢になった家族の耳が聞こえにくくなるケースも含め、聴覚障がいは誰にとっても他人事ではありません。

 

多治見市福祉課 手話通訳員の加藤由美さん

 

聴覚障がい者とのコミュニケーションには、いくつかの手段があります。まず思い浮かべるのは「手話」ではないでしょうか。手話とは、手、身体、表情などを使って話す言語です。口の動きや顔の表情などから話の内容を理解する「読話(どくわ)」という方法もあります。

 

「筆談」は、文字で言葉を伝える点は要約筆記と同じですが、話をする人自身が話したい内容を文字に書いてコミュニケーションをはかる方法です。主に一対一の会話で用いられます。

 

「要約筆記」は、多くの人が発言する会議、病院や役所、学校などの場面で第三者が会話の内容を要約して伝える方法で、聴覚障がい者と話し手の架け橋となる通訳のような存在です。その技術を学んだ「要約筆記者」は、多治見のまちでも活躍しています。

 

 

要約筆記や手話は、聞こえる側も含めた双方にとって必要なもの

 

多治見市福祉課 手話通訳員の八木こずえさん

 

要約筆記は、手話通訳に比べると認知度は低いと八木さんは話します。しかし、高齢になって聞こえが悪くなり補聴器だけでは十分な情報を取れない人など、手話では情報が得られない聴覚障がい者も多いのです。そういった人たちにとって要約筆記は欠かせないコミュニケーション手段となります。

 

多治見市では、聴覚障がいのある市民から通訳の依頼があった場合、要約筆記者、手話通訳者が派遣される仕組みを整備しています。市役所など行政機関での対応だけではなく、講演会などの行事、病院の診察、学校の学級懇談会への派遣などがあるそうです。

 

利用者の金銭的負担はありません。「要約筆記や手話通訳は聞こえない人にとって欠かせないものですが、聞こえる側も含めた双方にとって必要です。聴覚障がい者にだけ負担を強いるべきではない、という考え方ですね」と加藤さんが補足。派遣された要約筆記者、手話通訳者には市から手当が支給されます。

 

現在、多治見市では要約筆記者が3人、手話通訳者が5人登録して活躍しています。登録者は多治見市在住で、講座で学んで試験に合格した方々です。

 

 

要約筆記を実際にやってみた! 要約筆記体験講座レポート

 

アウトリーチ要約筆記体験に参加するA2 編集メンバーのりさぼん

 

では、要約筆記者になるためには何から始めたらいいのでしょうか? 各県では、要約筆記養成者講座が行われています。多治見市でも講座が開催され、全国統一要約筆記者認定試験に合格すると「要約筆記者」として認定されます。

 

講座では、聞こえにくい人(主に難聴者・中途失聴者)の理解を深めるとともに、話された内容や情報を伝えることの大切さ、大切な情報保障の手段である「要約筆記」の技術を学びます。今回は、多治見市総合福祉センターで行われた「アウトリーチ要約筆記体験」に参加しました。

 

 

まず「要約筆記とは何か?」について学びます。聴覚障がい者とのコミュニケーション手段として、いかに要約筆記が必要か。聞こえにくい人、聞こえない人にとって大切な情報保障のひとつであると痛感しました。

 

 

つづいて実技の時間に。要約筆記には、手書き要約筆記とパソコン要約筆記があります。手書き要約筆記は会議などで用いられる方法で、要約して筆記した文字をロール状の透明なシートに油性ペンで書き、OHCでスクリーンに映し出して伝えます。

 

 

今回は、手首を大きく使って文字を書けるように練習!これが意外とむずかしい……。誰が見ても違和感のない文字に合わせるのが大切なのだとか。読みやすいひらがなを書くコツを伺いながら、一文字ずつ練習していきます。

 

 

次は文章を書いていきます。均等に読みやすい文字を正しく書けるかどうか。その上、話している言葉の要点を掴み、簡潔な文章としてまとめていきます。

 

話している内容を短縮した「簡易表現」についても実践しました。

 

(例)

・学校へ行く → 登校

・私は悪くない → 私は正しい

・反対というわけではない → 賛成

 

このように要約筆記は、言葉のニュアンスよりもハッキリと伝えることが大切です。伝えるべき内容の芯に触れながら、まわりくどい表現を短縮する技術が求められます。

 

 

手書き要約筆記には「全国標準略号・略語」があります。これは要約筆記の場面で頻出する聴覚障がいに関する言葉を、記号化して書くことで少しでも早く書き表せるように考えられたものです。

 

(全国標準略号・略語の一例)

・コミュニケーション → コミ

・ボランティア → ボラ

・中途失聴 → 中失  など

 

「ボランティアによってコミュニケーションが生まれています」という文章だったら「ボラによってコミが生まれる」というように短く書いて伝えます。

 

 

パソコン要約筆記は、専用ソフトを用います。パソコンでは1分間に約120文字が打てるためスピーディに画面表示できる反面、入力してからEnterキーを押すまでにタイムラグが生じるのも特徴。文字をたくさん打ちすぎると読みにくいので、ここでも「要約」がポイントとなります。実際にパソコンを使った要約筆記も体験しました。

 

 

災害時にも必要となる要約筆記。まずは正しい理解から

 

 

まだまだ認知度が低く、多治見市でも要約筆記者が足りていない状況です。しかし、災害時にも要約筆記は欠かせないと加藤さんは話します。

 

「聞こえない、聞こえにくいという障がいは見た目では分かりません。たとえば、災害時に避難所で食料配布をされても聴覚障がい者にアナウンスが届かないケースもあります。市民の中で聴覚障がいに理解のある人が増えれば、さまざまな場面で“ひょっとしたら、あの人は耳が聞こえないのかも?”と気付いてくださるはず」

 

 

多治見市では、以前は市主催の要約筆記者養成講座を行っていましたが、現在は岐阜県主催の要約筆記者養成講座が実施されています。誰かの役に立ちたい人、聴覚障がいのある人が身近にいる人はもちろん、子育てが落ち着いたタイミングや定年退職後から要約筆記を学び始める人もいるそうです。

 

手話はドラマや映画で題材になることも多く広く知られていますが、要約筆記は目に触れる機会が少ないはず。要約筆記を知り、聴覚障がいについて学ぶところから始めてみてはいかがでしょうか。

 

障がいのある人、高齢者などを含め、誰でも必要とする情報に難なくたどりつけて、提供される情報やサービスを利用できるまちを目指して。要約筆記をもっと知りたい人、要約筆記者に関心のある人は多治見市役所福祉課の障がい者支援グループまで。

 

 

【問い合わせ】

多治見市役所 福祉課(駅北庁舎 2階)

障がい者支援グループ 福井・横山・八木

【住所】多治見市音羽町1-233

【電話番号】0572-23-5812

【メール】fukusi2@city.tajimi.lg.jp

SHARE

取材/広告掲載/プレスリリースに関する
お問い合わせや
たじみDMOの事業に関する
お問い合わせはこちらから