多治見が “落語のまち” になる! 落語でまちを盛り上げる 「らくごんなあれ」がスタート
皆さん、落語は好きですか? 観たことがありますか?
興味はあるけれどハードルを感じている人もいるのでは。実際に落語会を訪れると自由な雰囲気とともに、「笑い」の喜びを味わえるものだと実感できるはず。
しかも、多治見は落語が盛んなのをご存知でしょうか? コロナ禍以前から、市内のさまざまな場所で落語会や落語教室が開催されていました。著名な噺家の落語会が頻繁に開催される地方都市は少ないのだとか。
多治見を“落語のまち”として、より盛り上げようと2024年から「らくごんなあれ」という新しい取り組みがスタートしました。まちなかで行う落語会、落語家から学ぶ「上方江戸落語体験教室」が開催され、来たる2月22日(土)にはバロー文化ホールで落語体験教室の発表会が行われます。
今回は、まちぐるみで落語に触れる「らくごんなあれ」の楽しみ方を紹介します。らくごんなあれを主催するバロー文化ホールの熊谷雅子さん、多治見市学習館の三宅朝子さんにも話を伺いました。落語体験教室のレポートも!
多治見と落語をつなぐ「らくごんなあれ」とは?

日本の大衆芸能の一つである落語。滑稽な人物や不思議なストーリーを一人で演じて、誰が聴いてもおもしろく、分かりやすく伝える話芸です。落語家が言葉でつむぐ世界に飛び込み、自分の想像力を膨らませて楽しみます。
落語の起源は諸説ありますが、江戸時代には落語家のような存在が幾人も存在したのだとか。当時の娯楽が現代のエンターテイメントとしても脈々と受け継がれています。
多治見のまちで、より多くの人が落語を楽しめるようにと始まったのが、“落語のトリエンナーレ”である「らくごんなあれ」です。商店街や公共施設など身近な場所で実施される落語会、まちの人が上方落語・江戸落語を学ぶ教室と発表会など、2024年から2026年の3年をかけて、市内で落語に関する取り組みを行います。
こちらは、らくごんなあれの公式キャラクター「らくごん」。からだが吹き出しの形をしている珍獣で、感情によってからだがとげとげになったり、モクモクしたりと形が変わります。とにかく落語が大好きで、落語会にはどこでも顔を出します。ぴょこんと生えている尻尾がトレードマーク! らくごんが描かれた黄色のカラフルなポスターもまちの各所に掲示されています。
なぜ、多治見のまちで落語が盛り上がってきたのか?

実際に落語に触れてみると、誰もが気軽に楽しめるエンタメなのだと実感できるはず。らくごんなあれを主催するバロー文化ホールの熊谷雅子さん、多治見市学習館スタッフの三宅朝子さんも事業を通じて落語にのめり込んだそうです。多治見が落語で盛り上がった経緯、らくごんなあれへの思いや楽しみ方について伺いました。

―多治見での落語の盛り上がりは、いつ頃からあったのでしょうか?
三宅朝子(以下、三宅):和芸が好きなスタッフがいたことから、ワンコイン寄席や和芸フリースクールといった企画が生まれました。「多治見には寄席がないので都市部に行かないといけない。寄席の空間を文化会館でつくれないか?」という趣旨で始まり、2017年からワンコイン寄席がスタート。2カ月に1回行われる寄席が、毎回250人完売という人気企画に成長しました。
熊谷雅子(以下、熊谷):ワンコイン寄席は、若手の落語家を積極的に呼んで、大ホールの舞台の上に客席を作って落語を楽しめました。その他、真打独談会や色物さんにスポットを当てた会、今回の講師である柳家勧之助さんの真打昇進祝いをしたことも。
しかし、新型コロナウイルスの感染拡大で落語の盛り上がりが一旦途絶えてしまいました。落語ファンからの強い要望もあり、改めて落語で何ができるのかをみんなで考えました。「多治見のまちを、いろんな場所で落語が聴けるまちにしたい」というアイデアが生まれて、らくごんなあれの企画が立ち上がりました。らくごんなあれは、2026年に行う予定の「大落語まつり」に向けて盛り上げていきます。

―らくごんなあれをきっかけに、多治見でどんなことが起こっていますか? また、期待していることを教えてください。
熊谷:らくごんなあれの取り組みを機に、実は落語を好きな人が多いと気付かされました。多治見の若い陶芸家たちと落語の話題で盛り上がることも。3月にながせ商店街の玉木酒店で行われる落語会をきっかけに足を運んでくれる人もいますね。伝統芸能のイメージをカジュアルにしたかったのでうれしいです。
三宅:らくごんなあれという旗を掲げて、落語を通じて集まって交流してほしい。落語を聞く人、学ぶ人、観る人、落語会を開く人など、多治見で落語に関わる人が増えてほしいです。多治見のまちで落語のネットワークが広がるといいですよね。

―落語体験教室には、どんな人が参加していますか?
三宅:多治見市民が中心です。世代もさまざまで、10代で参加されている人もいます。若い人にもどんどん届いてほしいです。
熊谷:落語が好きな人だけでなく、人前で話せるようになりたい、人を笑わせて和ませたいという思いから参加している人もいます。短い小噺であっても人間味が出ているのが面白いですよ。
今回のらくごんなあれでは、落語を演じる人を育てる「上方江戸落語体験教室」も盛り上がっています。2月22日(土)の発表会に向けて、練習を行う現場におじゃましました。
観るから、演じるへ。伝統芸能をプロの落語家から学ぶ「落語体験教室」
2024年9月から始まった上方江戸落語体験教室。バロー文化ホールとヤマカまなびパークで教室が8回行われ、発表会のリハーサルと本番を合わせた全10回の講座です。プロの落語家から直接学ぶだけでも貴重な機会ですが、上方と江戸を選んで学ぶ講座は珍しいそうです。
大阪で生まれた上方落語と東京発祥の江戸落語には違いがあります。
上方はネタによって見台(けんだい)、膝隠し、小拍子という道具を高座において噺を進行させます。江戸ではお座敷芸として始まったとされ、見台や膝隠しのような道具は使いません。上方は「大道芸的」に辻で語られていたのが始まりです。
江戸は前座、二つ目、真打ちという真打制度がありますが上方にはありません。同じ噺でも、上方と江戸ではずいぶん雰囲気が異なるのだとか。上方発祥のネタを江戸でアレンジした噺も多くあります。聴き比べるのも楽しみ方の一つ。
上方落語コースの講師は、露の紫(つゆのむらさき)さん。江戸落語コースの講師は、柳家勧之助(やなぎやかんのすけ)さんです。各定員10人でしたが、どちらのコースも満員御礼!実際に講座の様子を取材しました。

上方落語コース、4回目の講座に伺いました。約1時間半の講座では、生徒一人一人が実演をした後に先生からの講評を頂きます。上方落語の最大の難所は、独特のイントネーション。上方言葉に苦戦しつつも、聴き手の心を揺さぶるべく全身で話芸を繰り出します。
顔の角度、話のペースや抑揚、声の出し方などを熱心に伝えます。
ジェスチャーの細かい所作も何度も指導。キャラクターの作り方によって、噺の伝わり方が一変します。
元々は、関西でタレントとして活動していた露の紫さん。大阪の天満天神繁昌亭で「落語家入門講座」を受講したことがきっかけとなって落語家に転向したのだとか。落語を学ぶ人の気持ちに寄り添って、親身に指導をされています。

つづいて、1月末に行われた江戸落語コース、5回目の講座に伺いました。この時期には、自分が演じる噺を暗記している人がほとんど。しかし、落語の表現は奥深く、ほんのちょっとの表情や声の出し方で情景の伝わり方が変わるのです。細かいブラッシュアップに熱が入ります。
目線は遠くに。目先しか見ていないと世界が狭くなるというアドバイスが。手の動き、組み方、胸の張り方によって、人物像が変わります。人間の所作は情報量が多いのだと実感。
お客さんの頭の中で、はなしを広げるには最低限で伝えるのが大切。オチをシンプルにするのもポイントです。落語家は喋っている時は頭を使わないそうです。勝手に口が話しているくらい叩き込みます。
生徒の噺で思わず勧之助さんが笑ってしまう場面も。厳しく、アツく、細やかな指導は時間いっぱいまで続きました。
皆さんの発表の場は、2月22日(土)のバロー文化ホールです。5カ月間学んだ稽古の成果を舞台で発表します。また、講師である柳家勧之助さん、露の紫さんの一席も。チケットは一般500円、25歳以下は250円です。
「落語が気になっている人は、この機会にぜひ! ふらっと来て、見たいところだけ見に来るだけでも大丈夫。落語入門としてオススメです」と熊谷さん。
落語は昔の時代が舞台となっていますが、描かれているのは私たちの日常と大きく変わりません。私たちと同じように落胆するし、間違えるし、ドジもする。どこか愛らしい登場人物を笑ったり共感したり。それはきっと生活のともしびとなる時間ではないでしょうか。
ぜひ、らくごんなあれをきっかけに、多治見で落語に触れてみませんか?
【会場】バロー文化ホール 小ホール
【日時】2025年2月22日(金)15:00開場 15:30開演
【料金】一般 500円、25歳以下 250円 ※未就学児入場不可
【問い合わせ先】0572-23-2600(多治見市文化会館)
507-0039
多治見市十九田町2-8
TEL 0572-23-2600
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