知りたい!多治見の風習vol.1 新羅神社で聞く「夏越の祓」
6月のある日、玉木酒店で買い物をしながら店主の玉木秀典さんとおしゃべりしていると……「夏越の祓(なごしのはらえ)って知ってる?」と。
それは、1年の半分にあたる6月30日に、半年の間に身に溜まった穢れ(けがれ)や不浄を落とし、残り半年を無病息災で過ごせるよう祈願する神事。「この辺りでは、新羅神社が行っていて、お手製の茅の輪が見事だよ!茅の輪をくぐって厄除けをするんだよ」と教えてくれました。
テレビでしか見たことのない茅の輪が多治見にもあると聞き、さっそく新羅神社へ出かけてみることにしました。
目には見えない不浄を清める神事
JR多治見駅から南へ徒歩10分程度。まちなかに突然現れる木々で囲まれたエリア。そこが新羅神社です。一目で歴史を感じる立派な佇まいで、神聖な空気が漂っています。
「所説ありますが……」と前置きがあり、宮司の須永啓之さんが、まずは沿革について話してくださいました。
新羅神社の創建は、さかのぼること奈良時代後半あるいは平安時代。田只味(たしみ・現在の多治見)に暮らした渡来人で新羅系の氏族が、その祖神を祀ったのが始まりと伝えられているそうです。
この頃は現在の場所(美幸町)に社はなく、記念橋の辺りに「田只味明神」という名称で築かれていたのだとか。室町時代、金閣寺ができる頃に「新羅明神」に名称を、そしてお祀りする神を素戔嗚尊(スサノオノミコト)様に変え、現在の場所へと引越しをして今に至ります。
2006年3月10日には、社殿と陶製灯籠、棟札が多治見市有形文化財に指定されました。
「夏越の祓」について、玉木さんから伺ったことを須永宮司に伝えると、「その通りです。でもね、‟穢れ“というと現代では馴染まないかもしれませんね」と一言。「我々は、知らず知らずのうちに、言葉にせよ行動にせよ人様にご迷惑をお掛けしてしまう、と捉えてみてはいかがでしょう。そういった穢れをまずは前半で締めくくろう、という神事が‟夏越の祓え”です。大きな神社では‟大祓(おおはらえ)“といって、12月31日にも同じように神事を行って、後半の締めくくりをするんですよ」
夏越の祓は、本殿の目の前に、直径約2メートル、太さ20センチの茅の輪が設置されています。2015年から毎年行っているこの神事。本来は、茅(チガヤ)という植物で作るそうですが、この辺りには生息していないので、葦(ヨシ)を使っているのだとか。
「葦が適してると教えてくれたのは、多治見市土岐川観察館の前館長・斎藤さんです。毎年、国長橋の近くで採ってきて、2~3日かけて作っています。まずは葉を落として、10本を一つの束にしたものをつなげて輪っかにしていきます」
茅の輪くぐりが厄払いになる理由
さて、茅の輪をくぐるとどうして厄払いができるのでしょう。
「地方の伝説に基づいていると言われています。素戔嗚尊様が全国を旅していた時、一夜の宿を探していました。ある村で、裕福な家に泊めさせてもらえないかを訊ねると冷たく断られてしまった。しかし、近くにあった貧しい家に住む蘇民将来(そみんしょうらい)さんは招き入れ、貧しいながらも心を込めておもてなしをした。翌日、素戔嗚尊様が旅立たれる時、‟あなたの家は将来とも守られる“と、小さな茅の輪を授けられたのだそう。その後、この地域で疫病が蔓延した時も、蘇民将来の家は疫病にかかることもなく末代まで繁栄したということが、事の起こり。大きな茅の輪にすることで、まち全体が守られるようにという願いをこめて、茅の輪の神事になっていきました」
多治見の7月といえば、まちのいたるところで「お天王様(津島様)」のお祭りもあります。街角に小さなお社があるのを見かけたことはないでしょうか。「こちらも素戔嗚尊様をお祀りしています。その地域の無病息災と疫病退散を願っているんですね。これも先程お話した伝説に由来しているものです」
そして、新羅神社では7月31日まで「夏詣巡り」という取り組みもされているそうです。
岐阜県内の16の神社で、この期間だけの特別な御朱印をいただけるのだとか。
「神社というと年末年始だけ訪れるという方がほとんどかもしれません。皆さんに少しでも神社に親しんでほしいという思いから、神社会が‟夏詣巡り“を始めました。その思いとムーブメントが岐阜にも届き、今年我々も参加しています」
多治見市内では、新羅神社のほかに八幡神社(喜多町)。東濃地方では、土岐市の白鳥神社、中津川市の田瀬南宮神社と恵那神社が夏詣巡りに参加されています。この機会に、地域の神社をめぐってみてはいかがでしょうか。
507-0834
御幸町2-99
TEL 0572-22-1658
https://www.instagram.com/sinrajinjya/