「本を読むことは、自分と向き合う時間となる」 創業125年、多治見のまちに根差す「ひらく本屋 東文堂本店」の思い
私たちは幼い頃から本に触れて生きてきました。まちの「書店」という存在が、本との出会いをつくり出しています。多治見には、創業125年という長い歴史を有する「東文堂」という書店があります。
JR多治見駅から歩いて8分ほど、ながせ商店街にある「ひらく本屋 東文堂本店」は、2019年にオープンした書店です。かつては、東文堂本店として多治見駅前の商業ビル・テラに店舗を構えていましたが、南口の再開発に合わせて閉業。そのタイミングで、新たな店舗として同店をスタートさせました。
今回は、株式会社東文堂本店・代表取締役の木野村 匡さんとひらく本屋の店長・木野村 直美さんに取材。東文堂本店の歴史と成り立ち、ひらく本屋が抱く想い。そして、4月11日(木)と12(金)に開催される125周年記念イベントについて紹介します。
125年前に多治見市小路町で始まった書店「東文堂本店」

はじまりは、1900年。創業者の木野村伝吉が、元々、営んでいた金融業が傾いた際に「世の中で一番安定している商売は本屋」という考えから立ち上げたのが始まりです。

現在、小路町にある東文堂本店 南店(現在は事務所のみ)の場所に店を構えました。当時の小路町は官庁街で、多治見の中でも有数のにぎやかな街並みだったのだとか。創業当時から地域に向けた教科書を販売しており、主力商品でした。教科書を詰めた1箱40kgにもなる木箱をリアカーに何個も積み、雪の降りしきる中でも土岐市鶴里地区まで運んでいたそうです。開業当時から現在に至るまで、地域に向けた教科書販売を継続しています。
多治見市内でも、数店舗の書店を経営。駅前に総合書店を構え、小路町の南店には陶磁器に関する専門書がたくさん置いてありました。多治見市陶磁器意匠研究所の学生たちが専門書を求めて足を運んでいたそうです。

たじみDMOのCOO・小口英二さんによる「中心市街地に本屋が必要だ」という強い思いに心動かされたと話す木野村代表。
「書店の商品は毎日変わります。特にひらく本屋はセレクトショップなので、今日は何が置いてあるんだろう?と楽しみながら、何かを見つけられる場所。ECサイトとは真逆ですね」
また、今後の本屋の在り方について木野村代表は語ります。
「Amazonのような大手ECサイトであっても、実は児童書の売上は良くない。児童書は、版型や文字の大きさ、広げた時の仕掛けなど、実際に手に取ってから子どもに読ませたいかどうかを考える。本には質感がある。スマホやパソコンの中にあるだけでは忘れてしまうものも、本棚にあればふと目に留まるはず」
また、本に触れる機会の大切さについても話します。
「お母さんの膝に乗って、大きな本を読み上げてくれる読み聞かせのシチュエーションはデジタルには生み出せないはず。人口減少、少子化で書店は難しい時代に向かっていく。でも、本に触れる経験の素晴らしさについて伝えていきたい」
大人や子どもの隔たりなく、同じ棚を楽しめるように

東文堂本店による地域密着型の書店として始まったひらく本屋 東文堂本店。多治見のまちと相互に関わり合いながら、可能性の扉をひらいていくことをコンセプトとしています。店長の木野村直美さんは、開業前の頃を振り返ります。

「元々、営んでいた店舗に比べると狭いため書店経営は難しいと思っていました。しかも、活字離れが叫ばれ、各市町村から本屋さんが消え始めている時代でした」
ヒラクビルの構想段階では、DMOメンバーとともに視察で青森や九州など各地の書店を巡ったのだとか。全国各地にある、本好きにとってのテーマパークのような小規模書店に刺激を受け、面白い本屋を作ろうと決意。独自でセレクトした本を並べる新業態の開業を決意しました。

ひらく本屋には、週刊誌などの雑誌やコミックの棚は置いていません。「情報はネットで取得できる時代だから、雑誌を置くのをやめました。コミックは中身を見なくても買えるもの。店を構えるなら中身を確認して、面白さを知ってから家に持って帰ってもらいたいんです」
選書は直美さんをはじめ、スタッフ全員で行っています。「たとえ名だたる賞を獲った小説であっても、選ぶ基準は面白いかどうか。スタッフも自由に選書していい。書店のスタッフの感性も本屋のスパイスになってほしい。自分たちが納得して、心から面白いと言える本を並べています」
オープン当初の冊数は3000冊。元々、営んでいた書店の3分の1ほどしかない規模の書店ですが、特徴的なのは本の配置。小説、文庫、新書など本の種類に分類されていません。例えば、料理のレシピ本が並ぶ棚に、料理のエッセイ、小説やコミックも混ざりながら並んでいます。

「生きものの棚であっても、小学生が読む児童書や図鑑も並んでいます。一つの棚を親子で楽しんでほしいんです。子どもは、大人が思うよりも急に難しい本に手を出すんです。大人だって、小中学生向けの本で学び直したっていい」
普通の書店にはない本に出会えるのも、ひらく本屋の大きな魅力。「普通に書店にはあるものが無くても、他店には無い本がある。だから、この規模であっても“いろんな本がある!”と思ってもらえるんですよね。ワクワクしてもらえたらうれしい」
「本を読む」というのは、自分と向き合う時間になる
ヒラクビルには、書店のほかレンタルルームやシェアオフィスが入居。ランチやコーヒーが楽しめる「喫茶わに」も隣接しています。購入前の本をカフェに持ち込んで読みながら飲食を楽しむことができます。本が好きな人は4~5冊抱えて、コーヒーを片手に読んでいるそう。夕方から夜にかけて、静かな時間にゆっくり読書する人が多いのだとか。
「書評に面白いと書いてあっても自分にとってはイマイチな本はある。自分の心が動く出会いを楽しめるのが本屋さん」
本を棚から出して、目次を眺め、自分の感覚に委ねて手に取れるのも書店の醍醐味。オンラインの買い物とは異なる体験となるはず。

「本を読むというのは、自分の考え方と向き合うこと。現代は慌ただしくて、自分に向き合う時間が持ちづらい。だからこそ、ネットの意見や噂話を信じてしまって翻弄されてしまう。私は、多治見を自分で考えることができる人が暮らす地域にしたい。そのためには、静かに活字と向き合って読むことが一番。本は自分との対話だから流されることも、ケンカすることもない」と直美さんは話します。
忙しい日々を過ごす人が多いからこそ、仕事帰りに書店へふらっと立ち寄り、15分でもいいからカフェで本を読む時間を持つことが大切だと力説します。
また、第四日曜には多治見駅北口の虎渓用水広場で「YONDAY(ヨンデイ)」という青空の下でピクニックをしながら本を楽しむイベント行っています。
「本=室内というイメージを持つ人が多いですが、屋外で読むのもすごく気持ちがいい。人間は置かれた状況によって感じ方が変わるもの。喫茶点で読んでもピンとこなかった詩集が、外で読むとスーッと入ってくることがある。本を読む環境を変えるのも面白いはず」
地元の人の「本を出したい」という夢を叶えられる本屋さんになりたい

最後に、多治見のまちで、どんな書店になっていきたいのかを伺いました。
「いろんな人と本の話がしたい。面白い本について気軽に教えてほしいですね。あと、出版社から出した本だけでなく自費出版される方の本も並べていきたい。地元の人の“本を出したい”という夢を叶えられる本屋さんになりたい。いろんなチャンスが転がっているようなお店でありたいですね」
自分と、誰かと、対話ができる書店として。まちに、未来に、「ひらく」書店として、今後も東文堂書店は多治見のまちを支えていくはずです。

また、東文堂書店創業125周年記念イベントとして、4/12(土)に児童文学作家・くすのきしげのり先生の講演会・サイン会「本を読むこと 考えること ~作者が語る作品の世界~」が開催されます。
徳島県生まれ、鳴門市在住のくすのき先生は、小学校(2024年度改訂)、中学校(2025年改訂)の教科書において、小学校1年生から中学校3年生の全学年の教科書に作品が採用・掲載されています。絵本『おこだでませんように』『メガネをかけたら』(ともに小学館)は、それぞれ2009年、2013年に全国青少年読書感想文コンクール課題図書となっています。200作品を超える著作は、海外でも広く読まれている児童文学作家です。
今回の講演会は、4月12日(土)10:00~12:00、まなびパーク多治見学習館 7階で行われます。入場チケット制で、チケット代は1,000円(税込)。また、4月11日(金)15:00~17:00、12日(土)12:15~13:30、15:00~17:00にひらく本屋 2階で行われるサイン会は入場無料です。イベントの問合せは、ひらく本屋 東文堂本店まで。
○ひらく本屋 東文堂本店
【営業時間】10:00~21:00
【定休日】水曜日
507-0033
多治見市本町3-25
TEL 0572-21-5610
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