暮らすように多治見に触れる宿泊施設 陶芸とタイルのまちに新たに生まれた「Kintsugi House Tajimi」
コロナ禍が明けた後、陶器まつりやモザイクタイルミュージアムを目掛けて多くの観光客が多治見にふたたび足を運ぶようになりました。しかし、最近の課題となっていたのは宿泊施設の少なさ。多治見市は名古屋から電車で40分という好立地のため、日帰りで観光する人も多く、ハイシーズンには市内のビジネスホテルやゲストハウスが埋まってしまう状況にありました。
2024年12月、多治見のまちに新たに宿泊施設が誕生しました。その名も「Kintsugi House Tajimi」です。多治見駅から歩いて12分。元お寿司屋さんだった古い町屋をリノベーションした一棟貸しの宿泊施設です。
今回は、Kintsugi House Tajimiのオーナー・深澤伊穏(いおん)さんに当施設の成り立ちやオーストラリアで暮らしていた深澤さんが多治見に宿を開いた理由を伺いました。多治見旅の目的地としたくなるような宿の空間や設備についても紹介します。
器とタイルのある暮らしを味わう宿として2024年12月にオープン

Kintsugi House Tajimiのオーナー・深澤伊穏さんは、1歳からオーストラリアで生活していました。12歳からの7年間は東京で暮らし、オーストラリアに戻ってからは大学で陶磁器デザインを学びます。その後、陶磁器ブランドを立ち上げた後、より陶芸を学ぶために2019年にやきものの研究機関である「多治見市陶磁器意匠研究所」のセラミックラボに入所しました。
意匠研究所を卒業した後はオーストラリアに戻って陶芸教室を始めるつもりでしたが、コロナ禍に突入。2020年から4年は意匠研究所の職員としても勤務していました。

成り行きで多治見での生活が継続することになった深澤さん。地域に知り合いが増え、やきもののまちならではの緩やかなコミュニティも居心地が良かったのだとか。
また、海外を含め、5年間で約50人もの友人を多治見に招いていたそうです。しかし、2年前に娘が生まれたことを機に自宅に友人を泊めることが難しくなり、多治見にゲストハウスがほしいという思いが生まれました。
「コロナ禍でオーストラリアに帰れなくなって、多治見での生活が続く中で人とのつながりも生まれました。自然な流れでゲストハウスを始めることにしたんです」と深澤さんは話します。

2025年2月に観光庁が発表した「宿泊旅行統計調査(2024年・年間値速報値)」によると、岐阜県における外国人のべ観光客は年間約230万人で全国11位。全国規模で見ても上位です。しかし、その多くが飛騨高山や白川郷を目的地としています。多治見をはじめとする東濃地方を目指す人はまだまだ少ない状況です。
多治見の魅力をピンポイントに発信する力や訪日外国人に多治見の文化を英語で伝えるサービスが少ないと感じていた深澤さん。自身の経歴を生かし、海外と多治見をつなぐ宿泊施設の構想を始めたのが2024年。多治見の空き家問題や陶磁器産業の減少を支えるべく、Kintsugi House Tajimiのコンセプトが生まれました。
多治見の人・まち・観光を金継ぎのようにつなぎ合わせて、同じかたちで価値観を生み出せる宿泊施設として、2024年12月から宿の運営を始めることになりました。
コンセプトは、金継ぎのように「再生」と「繋げる」

Kintsugi House Tajimiは、国内外の観光客をターゲットとした一棟貸しの宿泊施設です。場所は、多治見市青木町。多治見駅と本町オリベストリートの間にあり、土岐川のすぐ南側に位置しています。人気のカレー店やうなぎ店など、飲食店も多いエリアです。味のある居酒屋も近所にいくつもあり、お酒を飲みに行くにも良い立地。
食事がついていない素泊まりですが、多治見のまちの飲食店に足を運んでほしいという思いがあります。
シックな黒色の外観の木造2階建ての建物は、昭和に建てられた寿司店の空き家を再生。「金継ぎ」の名の通り、修繕によって新しい美しさを生み出す精神で改装されています。
1階にはリビングダイニングがあり、家族や友人同士でくつろげる空間が広がります。また、多治見の若手作家のオブジェ、地元メーカーのプロダクト、骨董品も並んでいます。
「若手作家から骨董品までを扱っているのは、多様で幅広い層の陶芸文化を表しています」と話す深澤さん。宿泊者は並んでいる器を使うことができるため、生活の中にやきものがあるイメージを掴み、作家の作品をより身近に感じられるのではないでしょうか。陶芸文化に関心のある人、アート、クラフト、デザインに興味のある人にオススメです。
リビングの窓から見渡せる庭は、深澤さんと友人の大工さんとともにDIYで設えました。宿は住宅街の中にありますが、高い柵に囲まれているのでプライベートな空間が保たれているのも安心。ウッドデッキでビールを片手に夕涼みをしても気持ち良さそうです。
1階にはキッチンも完備。壁面には多治見産のタイルを使用しています。ダイニングテーブルとベンチは、元々あった床の間の端材で友人が作ったものなのだとか。
IHコンロ、冷蔵庫や電子レンジに加えて、食器やカトラリー、調理器具も用意されているので暮らすように滞在できます。まちなかで食材を買って自炊する長期滞在の旅行者も多いそうです。ながせ商店街の玉木酒店、ぎんざ商店街の青果店・安藤商店などの商店で食材を調達するのも楽しそう!
リフォームしたバスルームにはTAJIMI CUSTOM TILESのタイルが貼られています。キッチン同様、多治見で作られたタイルを選んだのは深澤さんのこだわり。内装は、できるだけ多治見のものを使っています。トイレと洗面所には、深澤さん自身が作った洗面器も。
2階には和洋2室のベッドルームがあります。部屋は、最大6人泊まってもゆったり過ごせるサイズです。新しくリノベーションされていますが、歴史を感じる天井の梁など古民家ならではの重厚さを随所に感じられます。
陶芸のまちで、生活するように滞在できる宿として
日本文化、陶芸文化を体験できる6人までの一棟貸しの宿泊施設。もう一つの特徴としては、深澤さんが案内をするガイドツアーもオプションとして付けられる点です。観光客では訪問しづらい陶芸家のアトリエ、ファクトリーツアーなど要望に合わせてガイドプランを組み立てて提案しています。とある陶芸作家の作品を探しに同施設に宿泊した外国人観光客をアテンドしたこともあるのだとか。
現在、宿泊の予約は「air bnb」のプラットフォームを活用しています。ツアーガイドについても、air bnbのメッセージアプリ上でやり取りをしているそうです。宿泊料金は、一泊 28,000円(一棟貸し料金・1~2人まで、一人追加につきプラス5,000円)。6人まで宿泊が可能です。
「ビジネスホテルでは2人部屋が多く、みんなで集まってくつろぐスペースは持てないと感じていました。テーブルを囲んでリラックスしてもらえたらうれしい」と話す深澤さん。家族やグループで旅行する人にはぜひ活用してみてほしいですね。
Kintsugi House Tajimiに滞在し、多治見で暮らすように、まちに触れてみませんか?
【問い合わせ】Kintsugi House Tajimi
【住所】多治見市青木町2-22
【Instagram】https://www.instagram.com/kintsugi__house/
【宿泊予約ページ】www.kintsugihouse.jp
写真:加藤 美岬
507-0837
多治見市青木町2-22
https://www.instagram.com/kintsugi__house/