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例) 多治見 まち イベント

こと  2023.02.03

現代アート展「ゆうちゃんマルちゃん展」記念トークショー記録

あっつう度

高津戸優子×マルタ・フォフク

×トビアス・ヴァハター(ギャラリスト)×山本真路(プロデューサー)

 

2023年2月5日(日)まで、ながせ商店街にある「ヒラクビル」で開催されている、現代アート展「ゆうちゃん マルちゃん展」。

店内には、ドイツで10年以上活動し、現在は東京在住のアーティスト高津戸優子、さらにドイツ系ウクライナ人アーティストMarta Vovk(マルタ・フォフク)による作品が、日常の風景にちりばめられて展示されています。

 

今回の企画展は、ドイツの首都・ベルリンから電車で1時間ほどにある、音楽と文化の街といわれるライプツィヒでアートギャラリーを営み、アートディーラでもあるTobias Wachter(トビアス・ヴァハター)が企画。

さらに、多治見出身で、ドイツに活動の拠点をおいていたデザイナーの山本真路がプロデュースし、実現しています。

 

多治見の展示初日に合わせ、トビアスとマルタが来日。1月29日(土)には優子さんも東京からかけつけ、「喫茶わに」にてトークセッションが行われました。その様子をお届けします!

 

 

 

山本:今回の展示として、トビアスが主催、僕はプロデューサーとしての立場で関わらせていただいています。

 

僕もベルリンに住んでいたことがあり、アーティストの集まりの延長線上で、バドミントン会があり、優子さんと一緒に遊んでいたというところからスタート。コロナがスタートして、優子さんが日本へ帰ってくるタイミングでお会いして、日本で展示したいんだよね、という相談を受けました。

 

優子さんの作品は、ここにもあるように、猫寿司とか、陶器を使ったものもあったので、せっかくなら、僕の地元である多治見も会場に入れたらおもしろいんじゃないか?というところから話がどんどん大きくなって、ギャラリーとして展示をしましょう、ということに辿り着きました。

 

 

カタログありきの企画展をやりたい

今回制作したカタログ

トビアス:コンセプトは後ほどアーティストから直接。まず、ギャラリストとして仕事として、今回どう関わっているかをお伝えします。ギャラリストの仕事として、作品を収集するだけではなく、作品をサポートするお仕事があります。

 

マルタには10年ほど前に出会いました。優子には、6年半ぐらい前に出会いました。コロナ禍に、優子は帰国したんですが、1年後に連絡があり、日本で展覧会できないかな、というお話がありました。

 

その時に、真路と一緒にやりたいんだけど、という話がありました。

そこで、まず僕はカタログをつくりたい、と思った。ふつうの展覧会は、展覧会ありきのカタログなんですけれども、そういうのは、僕は作りたくなかった。

 

カタログは、ただ展覧会を見せるのではなく、アーティストたちのコンセプトを表現したような、カタログありきの展覧会をやりたいと思っていた。ここ2年間ぐらい計画していた。実際、航空券も買って、計画もしていた。コロナの影響で、延長延長が続いていました。

 

僕がギャラリストとしてやらなければならないことは、優子と真路がやってくれたので、感謝しています。コンセプトについては、直接、話してください。

 

 

8つのテーマにもとづく、作品づくり

 

優子:今回、この展示を開くにあたって、トビアスのほうからカタログをつくろうよ、と誘われ、実現しました。マルタとの共通性があると出会わせてくれて、お互いが大事に思っていることや、社会の中で問題に思っていること、全部ひっくるめて、8つのテーマに決めて作品をつくろうということになりました。

 

普通のカタログは、ぽんぽんと作品が並んでいることが多いですが、このカタログには、日本語とドイツ語でテーマを見て、思ったことがポエムみたいに簡潔に書いてあります。

 

それが、お互いのキャラクターをよく表しているかなって、思います。遠隔で会えなかったので、マルタの言葉をもらって、そんな風に思っていたんだと、それ自体がコミュ二ケーションになって、この展示までつながったのかなと思います。マルタがカタログについてどう思っているか、聞きたいです。

 

マルタ:8つのキーワード、テーマを決めたことで、すごくおもしろいことができると思った。理由は日本とドイツで観点がまったく違うし、比較ができると思った。グローバリゼーションが進んだとはいえ、お互いのバックグラウンドが違うことで、比較になるんじゃないか。

 

わたしはドイツで育ったとはいえ、ウクライナ人の母親に育ててもらった。優子は、日本人のバッググランドを持ちながら、ドイツに住んで、アートをやっていたというハイブリットなバックグラウンドがある。そのふたりが、テーマに対して、どういうふうに感じるのか、おもしろいコントラストになると思った。

 

山本:カタログには、作品のタイトルはなく、ポエム的なメッセージが紹介されている。アートはどう感じていいのかわからない、ということが課題としてあると思うんですけれども、ここにはヒントとしてメッセージがある。

 

 

「現代美術においては、使えるものではなく、使えないものを作らなければない」

トークショーの様子

 

山本:展示についてのお話はこれぐらいにして、続いて、多治見は陶器のまちで、アートよりも工芸の側面が強い。そこで、工芸とアートの違いについてお話できたらと思っています。

 

トビアス:僕のギャラリーの近くに、有名な芸術大学があります。いわゆる伝統芸術、絵画も含め、彫刻も陶芸のコースもいろいろある。けれども、いわゆる芸術というものでは食べていけないので、彫刻家になりたい人でも、彫刻は工芸の扱いなので、みんながみんなではないですが、ほぼ工芸であるセラミックをやって生活費を稼いで、本当にやりたい彫刻をやっていく。

 

マルタ:職人技VS現代アートの観点から話をすると、セラミックはやっていないんですが、面白いと思うのは、現代美術においては、使えるものではなく、使えないものを作らなければない。使えるものであってはならない。作品の価値と、使うということは無関係でなくてはいけない。そこが大きな違いだと思います。

 

ドイツでは、セラミックのアートワークやテキスタイルのアートは、わりと女性が活躍しています。クラフトマンシップで、そういう場がある。けれど、伝統芸術といわれるものは、ほとんどが男性。わたしは、それを興味深く見ています。

 

山本:自分のデザインのルーツが、ドイツのデザイン学校のバウハウスなんですが、そこに出てくる人物をみても、 トビアスが優子さんやマルタをとりあげて、現代アートの展示する機会を創出しているのは、珍しいこと?

 

トビアス:私は、ギャラリストとしての顔と、アートコレクターとしての自分があります。ギャラリストとしては、申し訳ないけれども、女性よりも男性を扱っている。ただ、新人のアーティストに関しては、逆。

 

アートコレクターとしての自分でいうと、決めたことがある。それは、女性のものを買うこと。なぜか。僕にも予算がある。女性というだけで、男性の作品よりも40%ぐらい安い。若い女性なら、もっと。もちろん、気に入ったものしか買わないという前提ですよ。将来性のあるアーティストのものを買うようにしています。

 

ベルリンというのは国際的な場所。無名なキャリアの人がキャリアをつくるのは相当難しい。大学でアートマーケットがどう機能しているか、なんて教えないので、不可能に近いぐらい難しい。

 

マルタの作品をいちばん最初に目をしたのは、ボン(旧西ドイツ)でやっていた展覧会だったんですが、大嫌いだったんです。彼女の作品が。なんなんだ、これは!と。でも、訳がわからなすぎて、彼女のHPを見た。そうしたら、1枚だけ気に入った作品があって、アトリエに行きました。そこにあった彼女の絵が、自分に語りかけてくるようでおもしろかった。

 

タイトル「資本主義よ、あなたは私の人生を破壊した」マルタ・フォフク

 

今回、展示作品の中にC&Aと書いてある作品があります。C&Aは、安価を売りにしている量販店。それを書くことで、消費、安売り、みたいなものを出して、表現している。その表現がおもしろい。

 

山本:作品のことで補足すると、展示されている鏡にはクリスチャンディオールのロゴが入っていて、ギャップがおもしろい。

 

階段を上った先にも作品があって、シャンデリアに照らされてキリストがあって、すごくシニカルな置き方をしているのも、この場でやることのおもしろさかなと思います。

 

タイトル「イート-エンジョイ・ドットコム – Eat-Enjoy.com」高津戸優子

 

トビアス:優子さんについて。当時描いていたのは、ほとんどが宗教的な抽象画でした。小さな木製のキャンバスに描いていて、すごく面白いと思ってスタジオに行った。抽象画というのは伝統画に比べて手が届きやすい。

 

すでに著名な抽象画家とは違って、優子さんのテーマがおもしろい。例えば、バナナをテーマとしてよく扱っていた。立っているバナナとか、ジャンプしているバナナであったり。ユーモアをもって、表現する。それが面白いなと思いました。

 

ベルリンというのは、アーティストにとって、濃くて興味深いまちなんですね。新しい人、アーティストであふれている。世に出ていないアーティストが、世界中から集まっている。そんななかで、優子とマルタに通じるものがあると思ったから引き合わせました。

 

 

絵を通して、コミュニケーションがはじまる

タイトル「猫の画像、コミック、ポルノ、情報 – それこそが生き甲斐」マルタ・フォフク

 

マルタ:優子とは、一瞬でお互いの作品が好きになったし、共通しているものがあるなと感じました。共通点のひとつとして、見ている人に上から目線で、メッセージを押し付けたくない。

 

もちろん必ずメッセージはある。けれども、押し付けがましく、このメッセージを読み取ってほしい、というものはない。

 

私の作品に関していうと、わたしはいつも新しいメディアとか、消費社会、新しいメディアの消費に対して批判的なものがある。C&Aというただ安いじゃなくて、スーパーチープな店に、中世の木版画をモチーフにしたものを対比させて、私なりの批判をしている。

 

タイトル「無名のマウント寿司」高津戸優子

 

優子:一般的に、アート作品と思うと、値段が高くて高尚なイメージがある。けれども、わたし自身はそういう家庭で生まれ育っていない。絵が好きで、偶然ここにいる。好きなものをつくって、もがいている。そんな自分のパーソナリティに興味があって、そういうものしか描けない。マルタでの作品も、自分のバックグラウンドを通して、興味があるものが描かれている。見る人のバッググラウンドのもとに、自由に解釈してほしい。

 

タイトル「猫寿司」高津戸優子

 

わたしには、社会的なこんなメッセージがあって、わたしについてきてよ!というのはまったくなくて、わたしはこう思ってて、あなたはどう思っている?絵を通して、コミュニケーションがはじまるというか。そういうものだなと思っています。

 

トビアス:声を大にしたような考えとかメッセージはなくて。自分の個人的な経験を大切にしている、ということが、ふたりに通じていることじゃないかな。

 

集合写真

 

今回ご紹介している作品のほかにも、「喫茶わに」の店内にはおふたりの作品がさりげなく展示されているので、ゆっくり探してみてくださいね。また、ここから徒歩7分ほどにある「新町ビル」でも同時開催です。こちらはギャラリーらしい佇まいの中で、まったく別の作品が展示されていますので、そちらもお楽しみください。

 

■「ゆうちゃんマルちゃん展」多治見会場

【期間】2023年1月28日(土)~2月5日(日) 水曜休み

【会場・時間】ヒラクビル 10:00~21:00 / 新町ビル1F 12:00~18:00

※展示されている作品が各会場で異なります
※入場無料

 

【イベント】

クロージング イベント

2⽉4⽇(⼟) 12:00〜 新町ビルにて

〈在廊〉マルタ・フォフク、高津戸優子 〈フード〉 タナカリー

 

 

Text / みなみみく

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