知りたい!多治見の風習vol.2 秋のおとずれ
日中は陽射しも強く蒸し暑い日もありますが、立秋が過ぎ、暦の上では秋です。夕暮れ時や、虫の声を聞いた時など、ふとした瞬間に秋の気配を感じることが増えてきました。
玉木酒店の店主・玉木秀典さんとおしゃべりしていると、今度は「重陽の節句(ちょうようのせっく)」から始まる秋の季節行事について教えてくれました。
前回のvol.1では「夏越の祓え」についてお聞きしました。
9月9日は重陽の節句 陽が重なる縁起の良い日

「端午の節句(5月5日)や七夕の節句(7月7日)もそうだけど、日本には奇数月に‟五節句“があって、その中の一つが重陽の節句。奇数は良い運気を運ぶ‟陽の数字”と古くから考えられていて、最も強い‟九“が重なる日を‟重陽”と呼んでお祝いしてきたんだよ」と玉木さん。玉木さんは、かまわ菴 漢塾のメンバーで茶道を嗜み、普段から季節を取り入れた暮らしをしています。

重陽の節句は、‟菊の節句“とも呼ばれています。花びらを浮かべた菊酒を飲んだり、前の晩に菊の花に綿をかぶせ、夜露や香りをまとわせたもので次の日に体を拭く「着せ綿」の風習もあるんだとか。
『暮らしを楽しむ日本の伝統行事(神宮館発行)』の書籍によると‟菊には邪気を祓い、長寿の効果があると信じられていたため、不老長寿や子孫繫栄の願いを込めた”とあります。夏の終わりの節句ということで、暑さで弱った体の回復も願っていたのかもしれませんね。家族や、遠く離れた親戚を思いながら、菊を眺めるのも良いですね。

「片月見」は縁起が悪い

9月の季節行事で、まっさきに思い浮かぶのはお月見。十五夜、中秋の名月とも呼ばれ、皆さんにとっても子どもの頃から親しみのある季節行事ではないでしょうか。旧暦の8月15日を指すので、今年(2023年)は9月29日(金)です。
「十五夜だけじゃなくて、十三夜もあるんだよ」と玉木さん。十三夜も十五夜と同様に、月見団子やススキ、収穫物などをお供えして、月を眺めながら秋の実りに感謝する日なんだそう。旧暦の9月13日を指し、十五夜のおよそ一カ月後。今年は10月27日(金)になります。
「十五夜と十三夜、どちらか一方の月しか見ないことを‟片見月(かたみづき)“と呼んで、縁起が悪いと言われているから、どちらも楽しんでね」そんな風習があるなんて初耳!この日くらい、ゆっくりと夜空を見上げてみるのもいいですね。
多治見の月見団子のかたち

お月見に欠かせないのが月見団子です。実は、この地域の月見団子には特徴があります。
2008年、多治見市弁天町にお住まいの安藤節子さんという女性が、同じく小田町に住む古田政子さんや、多治見市郷土資料室に勤めていた鈴木正男さんに話を聞いて編集し、多治見市図書館に寄贈された『長瀬村の年中行事』。この書籍には、この地域で先祖から受け継いできた年中行事がまとめられています。その中に、このような記述がありました。
‟お月見には月が良く見える廊下に机を出して、その上に月見すいとん(※1)、月見団子(※2)、豆腐、酒を並べ、花瓶には萩とススキを入れ飾ります”
※1 月見すいとん
〈作り方〉
ボールに小麦粉を入れ、熱湯でかき混ぜておきます。次にだし汁を煮立て、里芋、かしわ、油揚げ、牛蒡(ごぼう)、豆腐を適当な大きさに切って入れ、味噌味にします。その中に、先に作っておいた小麦粉をスプーンに取って落とし入れます。
(書籍『長瀬村の年中行事』から引用)
※2 月見団子
〈作り方〉
米の粉に黒砂糖を入れ、良く捏ねます。それを里芋の形に作り蒸します。
(書籍『長瀬村の年中行事』から引用)

そう、この地域の月見団子は里芋(しずく)型なのです。「月見団子」を思い浮かべた時、あなたの頭の中にはどんな形のものが浮かびましたか。小さな丸型の団子をピラミッド状に盛り付けたものは、イラストや絵本などでよく見かけますよね。これは主に関東で見られる形なんだそう。
「私にとってお月見団子と言えば、小さな頃から慣れ親しんでいる里芋型。この辺りはほとんど里芋型だと思います。時期的に十五夜とお彼岸の日にちが近いので、丸型のお彼岸団子を‟私はこちらがいいわ“とお月見団子として買っていく方もいらっしゃいますよ(笑)」と話すのは菓匠庵やまよねのご主人。里芋を模すことで、収穫の恵みに感謝する心が表れているのでしょう。いかに先人たちが自然と共に生きていたのかが伺えます。

秋の七草を多治見で探してみた

『長瀬村の年中行事』の中で、お月見の時にお供えするものの中にハギとススキがありました。これは、秋の七草のうちの2つ。
1月7日の人日(じんじつ)の節句では、春の七草を使ったお粥を食べる習慣があり、スーパーでも七草セットが販売されていますが、秋の七草は観賞用。一般的にハギ、ススキ、クズ、ナデシコ、オミナエシ、フジバカマ、キキョウとされています。万葉集に収められている山上憶良(やまのうえのおくら)が詠んだ二種の歌がきっかけで誕生したのだとか。
「秋の野に 咲きたる花を 指折り かき数ふれば 七種の花」
「萩の花 尾花(※3) 葛花 撫子の花 女郎花 また藤袴 朝貌(※4)の花」
※3 ススキの別名
※4 (諸説あるが、現在では)キキョウのこと

多治見のまちなかでも秋の七草をいくつか見つけることができましたが、見つけるのに一苦労!秋の代名詞のような植物ですが、開発が進む中でだんだんと少なくなっているのかもしれません。山上憶良の歌のように、秋の七草をすべて一度に眺められる風景は、今も日本のどこかにあるのでしょうか。散歩をしながら、ぜひ秋の七草を探してみてください。
自然と共に生きる喜び
最後に、『長瀬村の年中行事』は、このような言葉で締めくくられていました。
‟昔の人は自然を畏敬し、自然の恵みに感謝して、その心が一つ一つの行事という形になって行ったのではないかしら……と思う迄になりました。“自然と共に生きる喜び”そこには時間がゆったりと流れ、心豊かな生活(くらし)を見た思いです” 先人の暮らしに思いを馳せながら季節を楽しむことは、気持ちも安らぎ、心身共に元気にしてくれるようです。時代は変わっても、大切に引き継ぎたい文化です。