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例) 多治見 まち イベント

もの こと 場所  2023.12.14

まちの対談 【KNOT】vol.2 後編 新町ビル・水野雅文さん×陶芸作家・小平健一さん

あっつう度

ぎんざ商店街の入口に程近い、築50年の古ビルを再生した「新町ビル」。やきものと文化の発信拠点として地域に大きな影響を与えています。前回に引き続き、新町ビル4階「地想」の店主・水野雅文さんと新町ビルで個展「bird town」を開催している陶芸作家・小平健一さんとの対談です。

 

まるで“漫画家と編集者”のように作家に伴走しながら、つくりあげた個展について。新町ビルの視点、「店」や「作り手」の役割、そして小平さんの作品の魅力についてじっくり語ります。

 

まちの対談 【KNOT】 vol.2 前編 新町ビル・水野雅文さん×陶芸作家・小平健一さん

 

本心がこぼれた瞬間を掴みに行く

新町ビル4階・地想の店主・水野雅文さん
岐阜県瑞浪市出身、大学進学を機に名古屋で15年間暮らした後、多治見に移住。名古屋では海外の古着やアパレル、アンティーク雑貨を取り扱うショップで販売職に携わっていた。

 

 

―前編では、水野さんが多治見でお店を始めた経緯について伺いました。自分の店に並べる物はどうセレクトしていますか?

 

水野:僕の場合は感性100%で、自分の心に響くものがあるかどうか。そこに僕がどれだけ素直になれるかが鍵だと思っています。

 

小平:すごい商売だな……感性100%ってことは純粋に自分の好きを集めるってことだもんね。

 

水野:そうですね。それが限りなく100に近いかどうかが自分の意地というか、戦いですね。いかに店主の目利きと個性が色濃く出ているかが大事。

 

小平:なるほどな~。

 

水野:お店をやっていると「どうやって作り手を見つけるんですか?」と頻繁に聞かれるんだけど、特別な技術があるわけじゃない。大事なのはどういう風にアンテナを立てているか。

 

小平:アンテナね。

 

水野:師匠の言葉を借りるなら「目が合う」という考え方だけど、みんなと同じように情報を得たとしても、自分の経験や日々考えていること、自分じゃないと立てられないアンテナがある。そこに引っかかるかどうか。だから、まずアンテナを立てなきゃいけないし、立てる前にいま考えていることや経験が必要なんですよね。

 

―市場の指標ではなく、自分だけのアンテナがあるかどうか。

 

水野:僕たちは作り手の感性、才能の部分を見つけなきゃいけない。たとえば、ずっと活動している人でも変わる瞬間がある。それを感じ取れるかどうか。いい方向に向かおうとしている時、何かが吹っ切れたと分かるとすごく一緒に仕事をしたくなる。小平さんにはそれを感じた。

 

陶芸作家の小平健一さん
東京都板橋区出身。多治見市意匠研究所を卒業後、土岐市の窯元でやきものの生産、営業、開発、全般に従事。50歳で独立し、作家活動を本格的に始動した。今回は妻の薫さんが営む多治見市三笠町のカフェ・茶菓小にて取材。

 

 

水野:とはいえ作った物に出ますよね。顔に性格が出るのと同じくらい。特に陶芸はフィジカルに近いから現れやすいですよ。

 

小平:そうだね。汲み取る力だ。

 

水野:長年気になっている作家さんでも「いまだ!」と思う瞬間があるんですよ。それはちょっと足りない時か良かったはずなのに揺らぎ始めている時。あとは作り手から「本当はこれが好きなのにな」という言葉がポロッと出た瞬間にスイッチが入る。

 

小平:ああ~。

 

水野:「それがやりたいんでしょ?やったらいいよ!」と言いに行きたくなる。

 

小平: そうすると作り手はうれしいよね。やっぱり周りからは売れているものを作ってくれって言われるからさ。

 

 

―作り手の本心を引きあげる役割ですね。

 

水野:本心がこぼれる瞬間はすごく輝いて見える。それを掴みに行っている。でも、やっぱり本人の決意がないと本物にはならない。やらされている感覚じゃなくて、前向きに楽しんでみようと取り組まれていることはすごく尊いことだと思います。

 

―……とはいえ、小売業の一般的なビジネスモデルとは距離があるような。

 

水野:うん、乖離していますよね。笑

 

小平:店主やギャラリストって理知的で計画的に考える人。作り手やアーティストの方が奔放な感覚の人というイメージがあるでしょ。でもね、ときに水野くんの方がファンタジーだと感じる。

 

水野:笑

 

小平:きっと漫画の編集者も、そういう人は多いんじゃない?きっちりスケジュール管理をしながらも抽象的な思考や感覚が鋭いから、作家も「こいつなら分かるだろ」と思って信頼関係が成り立つ。

 

水野:確かにそうだ。

 

小平:しかも、水野くんは地場産業にも出入りしながらバランスを取ることもできる人。バランスを取りつつ、自分のやりたい方に引っ張っていくのもうまい。水野くんの動機は理屈じゃなくて直感だから、自分のひらめきに対して忠実にエネルギーを注いでいる。

 

水野:何でもやりたくなっちゃうけど、基本的には人と一緒にやりたいんですよね。僕は見たことない景色を“誰かと一緒に”見たい。本当にめんどくさい性格ですよ。笑

 

 

新町ビルが「一人称」として認識されるために

 

―見たい景色の先にあるものが新町ビルだとすると面白いですね。それもある種の作品じゃないですか。

 

小平:そういうことだよね。編集者は漫画が描けないけれど、漫画家は『週刊少年ジャンプ』は作れないんだよ。出版社、編集者の人たちがいるから漫画を描ける。要は、水野くんは“ジャンプを作っている人”でしょ。

 

水野:そうでありたいですね。

 

―小平さんから見た新町ビルはどんな存在ですか?

 

小平:陳腐な言葉だけど「ハブ」だよね。新町ビルにいる二人の店主がハブになっているけれど、「新町ビル」というプロジェクトやチームという単位かな。

 

水野:小平さんが言う通りで、世間の人の印象として「新町ビル」が先行しているんですよ。これは戦略的に、それぞれの店名よりもビルを押し出したからこそ。

 

新町ビルは、1階がイベントスペース、2階に産地の陶作家を中心に取り扱う「山の花」、4階にやきものとアパレル、インテリアを複合的に取り扱う「地想」が入っている。

 

―4階の「地想」、2階の「山の花」、それぞれの店名ではなく。

 

水野:たとえばラシック、パルコ、松坂屋というように、建物がある種の一人称を得ると広がり方が全然違う。パルコの中に入っている店舗に行くとしても、世間の人は「パルコに行こう」という意識になる。そうすると一気に「いろんな人が入って来てもいい」という見え方になって縦にも横にも広がりやすい。

 

小平:これもまさに『ジャンプ』だね。ジャンプ理論。

 

水野:そう、「ジャンプ読もう」ってなりますよね。そういう状況が作りたかったんです。だから新町ビルを先行させて、訪れたときに2階が好きか、4階が好きかでいい。新町ビルが面白いことやっているらしい、新町ビル、新町ビル、新町ビル……と4年間ずっと刷り込み続けています。

 

―たしかに、新町ビルという主語で話題にあがりがちです。

 

水野:ここまでビル押しで来たけれど、今後はもっとお互いの店を育てていかなきゃいけないですね。

 

 

―まちや産地における新町ビルの役割はどうでしょう。

 

水野:この地域にはいい作り手さんがいるけれど、「自分の作品をいいと思ってくれる人が地元にいなかった」という人もごまんといる。そういう作り手にとっては、新町ビルを通じて地元で発表できる場ができたと喜んでくれる方もいる。

 

小平:僕もそう。

 

水野:あと、新町ビルはサブカルチャーも意識しているから、陶芸や工芸に限らず面白いことをやりたい人にとっては、ちょうどいい場所ができたはず。音楽や飲食……新町ビルだったらこんなことができるでしょ?という企画を提案してもらったり一緒に楽しんだり。

 

小平:テイストの異なる山の花と地想があるから幅も広いよね。

 

水野:新町ビルは、全方位的にいろんなところと関われる余白が多い。これは産地のおかげでもある。産地という圧倒的に強いバックボーンを手に入れているから、どこに向かっていっても個性を発揮できるんです。

 

 

―地域を選ばず、さまざまなシーンで共感が生まれそうです。

 

水野:新町ビルを始めた途端、会社員時代に一方的に知っていた人たちとつながる出来事がどんどん起きて、それが全国に広がっている。行動したから得られたことはありますよね。

 

小平:会社員と自営業で意識が変わった感覚はある?

 

水野:変わりましたよ。前職を辞めるとき、自分にかかっていたリミッターを外して、自分全開で行くぞと決めていたし。リミッターを外して好きなようにやっていたら、好きな人たちと同じ感覚で共感し合える間柄になれました。

 

 

出会うべくして出会った人のもとへ飛び立つbirdたち

 

―最後に、水野さんが思う「小平さんの作品の魅力」について聞かせてください。

 

水野:どこから話そうかな……。作っていることと作っているもの自体がこんなに楽しそうな人って滅多にいないと思うんです。ぜひ小平さんの作品の軽やかさを感じてほしい。軽やかに見えることってすごく重要だから。

 

小平:暗い、重い、しんどいがアートや表現だと思う人が多いからね。歴史をたどると、そういう側面もあるのかもしれないけど。

 

水野:小平さんの作品と同じようなことを若い人がやろうとしても絶対にできない。birdの持つ可愛さと、どこかに感じる深みは簡単には出せない。

 

 

―小平さんの人柄が作品に現れている。

 

小平:俺の役割って「黄レンジャー」だと思う。「小平さんはみんなを柔らかくしてくれたら、それでいいです」ってね。みんながフルパワーでやれるための気分転換担当みたいになれれば。

 

水野:そういう人柄が作品にも溢れているなぁ。そして、小平さんの作品は、作り手はもちろん、見た人も買った人も愛着が持てる。それぞれの作品に圧倒的な個性があって、自分の心を置き換えることもできるんです。

 

小平:そうだね。

 

水野:パーツを組み合わせて形を作っていく制作過程の中で、birdたちの方から小平さんのもとへやってきているのかなと思う感覚があるんだけど、完成するとちゃんと小平さんの手から離れている感じがする。

 

小平:たしかに。行くべくして手に取ってくれた人のもとへ行っている。その人が選んだものは、その人だけのbirdという感じがする。

 

水野:だからこそ誰かに迎えに来てほしい。会いに来てほしいですね。

 

小平さんの工房には、壁にbirdの作品が掛けられている

 

小平:……そういうのって、いつ考えてるの? 展示中に思っているのか、終わってから考えるのか。

 

水野:常に頭の片隅にいますよ。感性100%の人間だから、とにかく直感を信じて「何が良かったのか?」をずっと考え続けている。でも、僕が直感で良いと思ったからには、絶対に意味があると自信を持っていますね。

 

小平:どんどん勘が磨かれていくから、勘に従って動いていいんだ。

 

水野:コミュニケーションも大事ですよね。対話して記事になって、次の人に届く。こういう幸福なループを作っていきたい。

 

―そう言ってもらえてうれしいです。

 

水野:そのためにも自分の言葉で的確に説明ができて、僕の感じた良さを伝えていくことが大切。そのあとは見てくれた人が自由に考えてくれればいいけれど、きっかけだけは提供したい。ぜひ今回の展示がどんな風に仕上がったのか、いろんな方に足を運んで見てほしいですね。

 

 

ken koda pottery「bird town」

【会期】2023年12月2日(土)~12月18日(月)

【場所】新町ビル 3階(多治見市新町1-2-8)

  

写真:加藤美岬

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