検索したいキーワードを入力してください。
キーワードが複数ある場合は、
半角スペースで区切って入力してください。
例) 多治見 まち イベント

もの 場所  2023.03.16

【連載】あの店のあの器 -真心- 後編

あっつう度

今回、お話を聞いたのは笠原町のラーメン店・真心さん。2022年にながせ商店街の玉木酒店で開催された「伝手展」の企画で作家に作ってもらった器でラーメンを盛り付けた、というエピソードを伺いました。後編では、その丼の作り手に話を聞きに行きます。

 

真心さんで見せていただいた器の作家たちは、司ラボに在籍する若手陶芸家です。現在、司ラボの管理人を担当している、中川夕花里さんにお話を聞くことにしました。臣悟さんの取材は閉店後にお邪魔したので、肝心のラーメンの写真が撮れていません。せっかくならと、中川さんを翌日、真心のラーメンランチにお誘いしました。

 

 

「いやぁ、ホントに真心のラーメンはすごいですよ。なんか食べた後に重くなる感じとか一切ないし、毎日でも食べれる。実は昨日、真心に行こうって小平さんからメールを受けた時、まさに塩チンタン食べてましたし」

 

ーえーそれは凄い!でも、連日は申し訳ないですね。別のお店にしますか?

「いえいえ全然大丈夫、今日はパイタン食べればいいから。週8でも食べたい。ほんとに近所にあって嬉しいです」

どんだけ好きなんだー。大げさに言えば週一は通ってる。旦那さんと二人揃って大ファンなんだそうです。

 

お店につくと中川さんは塩白湯に味玉、僕は味噌白湯に全部のせ。

 

ーそんな大好きなお店の丼を作るのはどうでした?

「去年6月の伝手展の後、そのまま7月に東京にも巡回して、そこでも中華料理店とのコラボが決まっていたので、ラーメン鉢と前菜のお皿を作りました。とにかくサイズが難しかった。出展作家みんなとも、製作の細かいルールの指定はないけど、一旦は現物を食べていろいろ考えようと話し合ったのですが、蓋を開けてみると、みんな独自の作風がありますし、バラバラで面白かった。展示中はアレは難しそうだなとかいろいろと思ったけれど、実際最後の食事会で真心さんに盛り付けてもらったら全然違った。これまでも使い手に寄り添った器を作って来たつもりだったけど、家庭用とプロ用ではまた違うことがわかってすごく勉強になった」

 

「あのー。食べてる写真撮るんじゃなかったでしたっけ?」

あーそうでした、美味しすぎて夢中になって忘れてました。お客さんの切れ間に臣悟さんも厨房から出て来てくれて。

 

 

器を作る人と中身を作る人、店主と常連客、親しい地元の先輩後輩? なんとも形容しがたい関係。

 

イベントや企画だけでなく、日常から近い距離にいる、作り手同士のリスペクト、元気、栄養、色んなの交換が目の前で見れて、幸福なランチでした。

 

場所を中川さんの仕事場「司ラボ」に変えてもう少しお話を聞く事にしました。

 

 

司電気炉研究所、司ラボ。より工房が動いている感じ、生命感のある仕事場であってほしいので、余暇で陶芸をという人より、自立することを目指す若い作家が対象の、在籍期間3年という期限付き貸し工房。

 

その間、誰かが指導してくれたり、これといったカリキュラムがあるわけではありませんが、主催の「伝手展」をはじめとする年に3つのイベントへの出展を約束として、より地域と交わり、馴染み、伝手を広げて、修了後も地元に定着してくれる作家を増やしたい。2016年ごろから始まり、徐々に今の形になってきました。

 

この日は中川さんの他に、丹羽さん、杉山さん、二人の作家が制作中でした。現在7名が在籍する空間は、壁を立てず、柱間ごと緩やかに区切られた各自スペース。そこにあるそれぞれ製作中の作品や材料、道具が見えて、個性が全く異なる作家が共生していることがよくわかります。窯は大小合わせて6機。外部の人にも貸し出しをしているので、ピークになるとこれでも大変なんだそうです。

 

この日、真心でラーメンを食べて来たことをお二人に告げると、とても盛り上がりました。みんな大好きなんですね。陶芸の人たちは美味しいもののことをよく知ってる。ひとしきり食いしん坊ばなしが盛り上がって、ハッと製作のお邪魔しちゃってる!と気づき、再び中川さんへインタビュー。

 

ー壁がなくて開けた空間だと、作家同士、こうやってお話ししながら製作したりもするんですか?

「そういうことも多いですね。ここに来ると誰かいるという安心感もあるし、一人だどダラダラしちゃいそうだけど、みんなやってるからっていう張りにもなる」

「いやーあなたたち、まだ喋ってたのってぐらい、喋ってることがよくあるよー」あはは。

 

ー共同アトリエのいいところってどんなことがありますか?

「やっぱり私は京都ではずっと一人で作って来たので、今は人がいるこの状況がとてもいいです。人と話して、自分が改めて何を考えているか整理できる感じがあります」

 

在籍中の作家はみなさん、陶芸がやりたくて移住して来た人で、多治見に知り合いはもともといない人ばかり。作りたいやきもの、学んで来た背景も様々だけど、ただ陶芸という共通言語がある人がそばにいて、仕事の話もするし雑談もする。それぞれが自分のやりたいことをやってるだけで、何か頑張れる。

 

中川さんのスペースで製作中の作品を見せていただきました。その作品はまるで、モザイクタイルを敷き詰めたような、瀟洒でシャープな第一印象です。

 

でも、ジーと見ているとプリントとは違ったどこか温かみがあって、色や形の組み合わせによっては、ノスタルジックだったり、ほのぼのした可愛らしさも感じます。そういう人?

 

ー大阪出身で、京都で陶芸を学んで、多治見に来てもうすぐ5年。多治見の街はどうですか?

「それは楽しいです。陶芸ができる環境がある街だって事だけでなく、飲食店とか地域とか横のつながりみたいなことがあって居心地がいいです」

 

多治見に引っ越して来てすぐの頃、初めは寂しくて毎月実家に帰ってた。多治見市陶磁器意匠研究所や多治見工業の専攻科にも行ってないから陶芸の知り合いもいない。ただ来て2日目に司ラボの代表の加藤貴也さんと玉木酒店で出会い、その月末にここに入居して、陶芸の困りごとは全部貴也さんに、生活の困りごとは玉木酒店の奥さん・陽子さんになんでも相談した。

 

ー中川さんは司ラボのインスタアカウントの管理もしています。最近の投稿でお蕎麦屋さんの一周年に寄せたコメントがすごく感動したんです。「伝手展などをきっかけにお店と繋がりを持てるのは本当にありがたいです。地域との関わりを築いて行ける活動が今後もできればいいな、としみじみ思いました。」これは中川さんの言葉ですね。

「そうです。ラボの展示活動でお店など地域の人と繋がりができていると、3年修了して工房を出たとしても、街の中に自分の居場所ができている。だからその後も多治見で居心地よく製作して、いい作家になっていけば、あの陶芸家が在籍した司ラボで活動したい、っていう人が集まってくる。意識の高い作り手が増えれば、また司ラボの評価も高くなる。ラボと作家の相乗効果の関係ができて行くといいと思っています」

 

ここは陶芸家として作品を作ること、人として多治見の街のに暮らすこと、両面が育める珍しい場所ですね。この場所について、もうちょっと知りたい。中川さんにお礼を言って、代表に会いに行く事に。

 

 

「例えば意匠研究所の研修生と工業の専攻科の学生、やきもの作家と地域、交わる場所がなくなっちゃった気がして。作りたかったのは、そういうやきものを本気でこころざす人たちが教育機関を出た後の居場所。行ったら誰かいる場所、地元で展示できる場所、日常生活で困った時に頼れる場所」

 

司ラボ代表の加藤貴也さんは、やきもの用の窯を作る会社「司電気炉製作所」を家族でやっています。この日は次のプロジェクトとしてオリベストリートに作っている「新しい場所」、4月にお披露目予定の「かまや」で夜中までレンタルキッチンのタイル施工をしてました。

 

ー貴也くんは地元出身で、家業があって、友達もたくさんいるし、十分じゃん。なんで他所から来た子たちの為に色々できるの?

「その答え僕も知りたい。」「楽しい街になれば僕も楽しいから。」

 

そういう人だよね。

 

若手作家はやがて独立して、自分の窯が欲しくなる。つまり、将来の顧客になりうる人たちに投資する。言葉では説明できそうですが、そういうタイプの人じゃない。

 

美濃焼以外にも全国には実は沢山の陶芸家がいて、その割に築炉屋さんは多くないから仕事には困ってないはず。どうしてもやらなきゃいけないことじゃない。この次のかまやのプロジェクトだって、どう見ても大変そうで、でもいつも楽しそう。

 

陶磁器の産業界でよく聞いてきた話。

 

意匠研や工業専攻科、美術大学を卒業したての子を思い切って新卒採用して、働きやすいように体制、福利厚生も工夫したけど、数ヶ月でやめちゃった。陶芸家やりたいんだって。ちっとも根付かないよね、という企業の言い分。

 

他方、若い卵としては。会社の仕事と自分の製作の両立はしんどかったです。得るものは得たんで、もっと自分の製作に集中したいっす。実家のある地元の方が安心して暮らせるし、そっちに帰って作陶したいですね。

 

どっちも言う通り、とは思います。単純にミスマッチ?それだけ? そのヒントが、司電気炉研究所、司ラボの取り組みにあるような気がします。

 

作家と窯屋と酒屋と飲食店。移住者と地元。もっと人としてシンプルなこと。

 

そして、2/10、11、12の3日間、真心さん1周年の記念特別メニューの企画。例の丼たちで提供されました。

 

 

あー食べたい。3日とも即完売。

 

「週6、店を営業してると世間がどんどん小さくなって行く気がして」

 

臣悟さんが取材中にボソっと呟いた言葉がずっと気になっていました。井の中の蛙にならないよう、自分を戒めているのでしょうか。本意を突っ込んで聞きませんでしたが、ネガティブに捉えると、同じことの繰り返しにも思える毎日で、どんどん時代や社会から置いていかれているような、漫然とした不安があるのかもしれません。

 

このコロナ渦を経て、遠出ができない、家に閉じこもるような日々を経験して、いろんな当たり前が変わって。かつての大きく広がった外の世界に新しい全ての価値があって、そこに出て行かないと何も得れない、そんな考え方は物理的にできなくなったり、おっかないものになっちゃったり。出て行ったとしてもその何かは用意されてるわけではない。そもそも時代とか社会ってどこに行っちゃったの?

 

一歩外に踏み出すのも大事。でも個々人の平和や幸福は、そういうふわっとした外の世界に狩りに行って得られるものばかりではなく、自分の足元から築いていく、同心円状に広がっていく。そういうイメージが今回4人のインタビューで、僕の頭の中には広がりました。

 

だから大丈夫。臣悟さんはきちんと自分の今できることをコツコツとカスタムして、真心という中心から、「あー美味しい!」という日々の小さな幸せの輪を広げてる。

 

玉木酒店も司ラボも、陶芸家も、みんな輪の中心。なんか多治見はそういう輪がお互いにリンクしあって、楽しくなり始めている。そんな気持ちになれた取材でした。

 

世界は大きく不確実で、可能性に満ちていていい。世間は小さくても自分で築いて温かい実体があるものならそれでいい。

 

前編はこちら

 

【今回の登場人物】

使っている人 真心

https://www.instagram.com/shingo_mashin/

つなぐ人 玉木酒店

https://www.instagram.com/tamahide/

つなぐ人 司電気炉研究所 司ラボ

https://tsukasalab.com/

↓         

作っている人 中川夕花里 

https://www.instagram.com/yukari___nt/

 

SHARE

取材/広告掲載/プレスリリースに関する
お問い合わせや
たじみDMOの事業に関する
お問い合わせはこちらから