まちの対談【KNOT】vol.1 前編 かまや多治見・加藤貴也さん×たじみDMO・小口英二さん
明治から昭和初期にかけて美濃焼の商家が立ち並んでいた本町オリベストリート。この地で145年間、時代の移り変わりを見てきた三軒長屋が、2023年4月に「かまや多治見」として生まれ変わりました。生活道具やオーガニック野菜、カレー店など多種多様な店と人が集う複合施設です。
今回は、かまや多治見代表・加藤貴也さんと、かまや多治見を共同経営するたじみDMOのCOO・小口英二さんで対談を実施。かまや誕生ストーリーから、場を持つことの大切さ、多治見の未来について……かまや多治見のお茶室でざっくばらんにおしゃべり。まずは、二人の出会いから振り返りました。
ひとつひとつの縁が結集して、生まれた「かまや多治見」
小口英二(以下 小口):僕は、2009年に多治見に引っ越してきて、15年目に突入しました。貴也さんと出会ったのは、ながせ商店街に「カフェ温土」を作っていた時。2010年だったと思います。
加藤貴也(以下 加藤):もうそんなに経つんだ~、あっという間ですよね。
―TMO(たじみDMOの前身の組織)は、商店街の活性化を課題としていたんですか?
小口:そうですね、ながせ商店街に「いっしょにやろう」と言ってくれる人たちがいたことがきっかけで、駅とオリベストリートをつなぐ線を作りたいと話していて。カフェ温土は事業の取っ掛かりでした。民間や行政では簡単にできないからこそ、まちづくり会社が運営すれば波紋が広がっていくかなというイメージで。
加藤:昔はまちにあまり人が歩いてなかったし、お店も潰れるばかりだった。
―そこから10年以上が経過し、ながせ商店街にヒラクビル、銀座商店街の近くに新町ビルが開業するなど、まちなかに店や人が増えた印象があります。
小口:ずいぶん変わりましたよね。
加藤:僕がオリベストリートの近くに住み始めたのは6年前くらい。元々、多治見に住んでいたけど、子どもがいるから山の中で引っ越し先を探していました。でも、見つからず諦めていたら、たまたま一つ出てきて、かまやの場所を紹介してもらえた。目の前が多治見市子ども情報センターだし、今後を考えるとまちなかもいいかなと思って。
小口:その時は、かまやの古民家に骨董屋さんがあったんですよね。
加藤:そう、骨董店が抜けた後、空いているのはもったいないから生活道具を販売する「ハナタロウ商店」を始めました。そんな矢先に新町ビルがたじみビジネスプランコンテスト(以下、たじコン)でグランプリを取ってさ。そんな人たちが周りにいるから、やるしかないでしょって思って、僕もたじコンに出場しました。
―古民家を再生するために?
加藤:そう、オリベストリートに面している古民家は壊せないと思った。
―街並み保存のため。それを背負うには覚悟が必要ですよね。
加藤:ここに住んでしまったが故ですよね。他の誰かだったら「残す」という選択は取らないかもしれない。でも多治見は好きだったし、Yes・Noが言える立場にいたからさ。
―たじコンではグランプリを逃したものの、かまや多治見の構想は進んだんですね。
加藤:ここは何とかしなきゃいけないし、グランプリを獲れなくてもできることはある。話はずっと進めていたけれど時間はかかりましたね。
小口:うちも補助金の相談などは頂いていました。2年前にイベントで貴也さんと隣になって改めてかまやの相談を受けました。でも、その時はお互いけっこう酔っ払っていたんですよね。笑
加藤:錦町の「studio en」のオープニングイベントだよね。
小口:ちょうどその前の冬に中小企業庁の商店街活性化のためのワークショップ事業にDMOが採択されていました。それに関する補助金を活用しながら、行政も巻き込んで具体的に話が進み始めましたね。
加藤:全てのタイミングがハマった。たじコンで発表していたから、行政にかまやの構想を知ってもらえていたのも大きいですよ。
小口:いろんな縁がつながっていますよね。
加藤:途中、話が流れそうになったこともあっても堪えてくれる人がいて、いろんな人をつないでくれました。コロナ禍でゆっくり進んでいたけれど、最初の勢いだけで突っ走っていたら、こんな施設になっていないはず。使えない空間が多かったはずだし、お茶室もなかったと思う。
淡々と続けていくことが大切で、何よりもむずかしい
―お二人のかまや多治見での肩書は?
小口:DMOは管理者。共同経営ですね。
加藤:僕は「かまや代表」と言われるけれど……管理人のおじさんみたいな感覚。笑
小口:笑
加藤:僕はどちらかというと場所をつくるのが好きだからさ。2016年から始めたシェア工房「司ラボ」も同じ感覚です。多治見意匠研究所や多治見工業高校・専攻科の人と話すと、二重家賃や台所を作業場としている、バイトと学校の行き来だけでまちの人との交流がないと言っていた。だから、行けば必ず誰か人がいる場所があったらいいなと思って司ラボをつくりました。
ー多治見でやきものを学ぶ人の声からシェア工房が生まれたんですね。
加藤:司ラボで若手の陶芸家が多治見で活動を続けてくれているし、ながせ商店街の玉木酒店で展示を開くようになって、作家のモチベーションにつながっている。司ラボは僕の成功体験だし、「場所があるか・ないか」がすごく大きい気がしています。新町ビルも同じ。そこに場があるから人が集まる。
小口:あとは場を作った後、どれだけ持続させられるか。
加藤:やっぱり自分たちが楽しんでいなかったら継続できないから、楽しくて興味があることをやり続ける必要があると思う。それも一人で突っ走るんじゃなくて、みんなで共有しながらやることが大事。
―23年4月、向かいの複合施設「THE GROUND MINO」と同日にオープンしたのも印象的でした。当初から計画していたわけじゃないですよね?
加藤:開業が近付いた時に「一緒にオープニングイベントやろっか!」と提案して。そういうノリです。笑
―本来だったら、業態としてライバルにもなり得ますよね。
加藤:そんな話もしたことある。普通だったらバチバチだよね、みたいな。笑 でもCCC(CERAMIC VALLEY CRAFT CAMP)やセラミックバレーで関係性はあったからこそ。それがなかったら、さすがに同じタイミングでのオープンは難しかったと思います。
小口:確かにそうですよね。
加藤:僕が出場したたじコンのグランプリを獲得したのが、オリベストリートのIRISE antiqueさん。これも不思議な縁を感じます。もし、そのタイミングで僕が獲っていたら、THE GROUND MINOとは一緒にオープンできていないですよ。
本町オリベストリートに誕生した、土を表現するスタジオビレッジ THE GROUND MINO
「美しき暮らし」に共感できる人たちが集う場に
―観光に特化した商業施設ではなく、まちの人が買い物したり、カレーを食べたり……生活に寄り添った拠点になっている印象があります。
加藤:そうなってほしい。
小口:あまり観光向けじゃないですもん、結果ね。
加藤:でも、入ってすぐのカウンターにガイドがいるといいのかもしれない。僕がいる時は建物や庭を見ている人に話しています。実は築140年の三間長屋をフルリノベーションして……この石は釉薬の元で……と説明すると、みんな興味を持ってくれるんです。
―確かに見ているだけだと、そこまで分からないですよね。
加藤:元々の古民家に使っていた壁の土は捨てられないから庭の土壁で塗ったし、屋根の野地板や竹も再利用しました。新しさと古くて良いものが融合して空間ができているし、庭は僕のお茶の先生がいっぱいアドバイスをくれました。入口はタナカリーで使えるようにハーブを植えて。水琴窟の文化を子どもに知ってもらいたい、といったアイデアを散りばめているんです。
―DMOとしては、かまやのどんな点に可能性を感じていますか?
小口:貴也さんと一緒にやる、ということにかなり賭けている部分はありますよ。
加藤:プレッシャーじゃないですか。笑
小口:僕らは公的な要素もあるし、自分自身もあまりクリエイティブな人材でもない。そういう中でも背伸びして面白いことをやりたい、かっこいいものを作りたいという思いを昔からずっと持っているんです。
加藤:そうなんだ。
小口:かまやのイベントだって、僕らだったらDJイベントは絶対やらないんですよ。笑 でも「こういうことは貴也さんにお任せしよう」と思える。お任せできない人だと何も始まらない。その中で僕らなりの役割もしっかり果たしていきたい。
加藤:遊びに来てくれた人が「ここでイベントがしたい」と相談してくれたんだよね。やらずにNOは言いたくないからトライしました。良い点は残しつつ、次はどうしたらいいかの相談ができればいいかな、と思って。やらなきゃ分かんないから。
―かまや多治見がオープンして半年が経ちました。どんな反響がありますか?
小口:やっぱり「まちに人が増えたね」と言われますね。
加藤:オリベストリートを歩く人が多い。遠方の人も増えましたよね。
小口:かまやからヒラクビルの事務所に戻ると、よく同じ顔を見ますね。ハシゴしてくれているのかな。
加藤:それはありがたいです。
―かまやの2階に新しい入居者も増えるかと思います。どんな人に集まってほしいですか?
加藤:「いいね」と思えるものが似ていること。「あれ、いいよね!」と盛り上がっても、「そうか?」って考える人ばかりだと全然楽しめない。正直、感覚が合うかどうかはお金よりも大事だと思っています。空室を埋めればいいわけじゃない。すでにいい人が集まっているんだから、その良さがより伝わるような形を目指したい。そうすることで場所としての価値も自然に上がっていくと思います。
小口:かまやに入るからこそ新業態を発想してくれる。そんな可能性も期待しています。
加藤:具体的にやりたいことのイメージを持ったり、みんなで共有したり。それはかまやのコンセプトの「美しき暮らし」の「美しき」に入ると思う。その感覚を共有できることが大事だから。
後編は、多治見の未来について。いまの多治見に必要なものとは? 二人がまちをどのように見ているのか。まちの対話を交わします。